展望なき経営統合 テクモとコーエーが抱えるそれぞれの事情 Part1

「突然の経営統合」

2008年11月18日、コーエーとテクモ両社が正式に経営統合を発表した。テクモは8月にスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)が行った買収提案を拒否、同時にコーエーとの経営統合を発表していたが、それが正式にまとまった形だ。

コーエーの松原社長は記者会見で『今回の経営統合の目的は、グローバルベースでより充実した経営基盤と、大きな成長機会の獲得を実現することにある』(注1)と語り、次いで2011年度迄に営業利益を2007年度の両社合算値である84億円から約2倍に引き上げる利益計画を発表している。

一方、スクエニにとっては驚きの結論であった。なぜならスクエニはテクモとの経営統合の協議をコーエーより長く重ねていたからだ。同社の和田社長によると2008年5月からテクモ柿原会長と『テクモのスクエニグループ入りについて話し合ってきた』(注2)という。8月に行った買収提案は『柿原会長とはメールベースでやりとりを続けていたが、実務的な議論に移行してほしいと考え、そのきっかけを作りたかった』(同)との理由からだ。

スクエニによる買収提案は突然もたらされた訳でも、ましてや敵対的な買収を仕掛けられた訳でもない。

さらに当時のテクモは突然社長が辞任するなど経営の混乱が続き、一時は経営の一線から退いていた創業家が改めて社長として復帰せざるを得ない状況に陥っていた。テクモの現状を見ていたスクエニとしては『今までしてきた話がどうなるのか不安になった』(同)と考えていたため、買収提案を行いテクモのスクエニグループ入りを実現させたかったのだが、テクモの出した結論は買収を拒否した上でコーエーとの経営統合を行うという思いがけないものだった。

テクモとしては今後単独で生き残ることは難しいと考えていたのは事実であろう。前社長の辞任により社長も兼務することになった創業家一族である柿原康晴会長の前職は医師であり異業種からの転身となる。もちろんゲーム業界でも異業種からの転身組は多数おり、実績を残した人物も数多くいる。スクエニの和田社長も金融業界から転身した一人だ。しかしながら、ゲーム業界に今後訪れるであろう景気後退に伴う環境悪化の影響を乗り切るためには経営手腕のより優れた同業他社との統合を必要としていたことは想像に難くない。

ではなぜテクモはスクエニではなくコーエーを選んだのか。テクモの柿原氏は理由の一つとして『安定した開発環境を得られること』(注3)を挙げ、『その点ではコーエーは間違いがないと考えている』(同)と述べている。しかしながら、スクエニの開発環境がコーエーよりも不安定であるとは考えにくい。例えば2009年3月期の売上高の予想数字を比べてみるとスクエニが約1600億円であり、一方のコーエーは300億円程度に過ぎない。もちろんこの数字だけでは断言できないが、売上が大きい企業の方がより経営や開発環境の安定度は高まることが多い。それにも関わらず、テクモは企業規模の小さいコーエーをパートナーとして選択したのだが、ではなぜテクモは敢えてスクエニより企業規模が劣るコーエーを選択したのか。

その疑問を考える上で重要になるのが2008年12月下旬にテクモへ送付された一通の質問状であろう。この質問状はコーエーとの経営統合に反対を表明したテクモの大株主である投資ファンド「エフィッシモキャピタルマネジメント」(以下、エフィッシモ)が送付したものである。彼らがテクモ側に送った質問状を見ていくことで、今回の経営統合が何を目的に成立したのかが浮き彫りになると考える。

今回はテクモへ送られた質問状を基にコーエーテクモホールディングス誕生の裏側に迫ってみたい。

注1……GAME Watch 『コーエー、決算発表会とテクモとの合併に関する説明会を開催 松原氏、「より充実した経営基盤と、大きな成長機会の獲得を実現」』
注2……ITmedia News『スクエニ、テクモに友好的TOB提案 「世界に通用する創造力が魅力」と和田社長』
注3……GAME Watch 『コーエー、持株会社の設立へ スクウェア・エニックスはテクモへのTOB提案を撤回』

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