「老舗の逆襲
~新携帯ゲーム機の狙い~」Part2 |
「対策」
携帯ゲーム機市場をほぼ独占している「GBA」があるにも関わらず、任天堂は年内にGBAとは異なった新しい携帯ゲーム機「ニンテンドー・DS」を発売する。同社は『異質なプレイ体験』(注5)ができるというニンテンドー・DSを第三の収益の柱にするつもりでいる。
しかしながら、現状の任天堂はGBAが生み出す収益に支えられている。この事実がありながらも、敢えて新しい携帯ゲーム機を発売するのはなぜか。同じ携帯ゲーム機であるのだから、GBAとニンテンドー・DSとの間で競合状態に陥る可能性も十分に予想できる。さらに、財務面においても新ゲーム機の発売は負担になるだろう。それなのに、なぜ任天堂は新しい携帯ゲーム機を発売するのだろうか。
まず考えられるのが、同じく年内にSCEから発売される携帯ゲーム機「PSP」の存在である。SCEの久多良木氏はPSPを『二十一世紀の“ウォークマン”だ』(注6)と評し、出荷台数の目標を1000万台に置いている。おそらくゲーム機能以外の付加価値が付くであろうPSPは、PS2同様に短期間のうちに普及する可能性がある。もし、そうなれば携帯ゲーム事業に支えられている任天堂にとって、PSPの出現は脅威となる。
『任天堂は“ニンテンドーDSは全く異なる種類のゲーム機”(豊田氏)と位置付けており、PSPとは直接競合しないとみている』(注7)が、発売される時期などを考えればPSPに対抗するべく、ニンテンドー・DSを発売するのだ、と判断されても仕方がないだろう。
しかしながら、ニンテンドー・DSを開発した理由を「PSPに対抗するため」に限定するわけにはいかない。もちろんPSP対策も主たる開発理由のひとつだろうが、それだけでニンテンドー・DSを開発したとは考えにくい。SCEの戦略はPS2では成功したかもしれないが、PSPも同様に成功するとは限らないのだ。現時点でのPSPは普及する可能性を秘めながらも、まだまだ未知数な部分を多く抱えていると言える。しかも、予定通り出荷できたとしても1000万台に過ぎない。果たして普及台数4000万台を超えるGBAを脅かすような存在になれるのか、現状では全く分からない。
もし、PSPが発売されるからといって、それに対抗するためだけにニンテンドー・DSを開発したのであれば、任天堂の「過剰反応」であると言わざるを得ない。では、過剰反応ではないとすれば、任天堂は何のためにわざわざニンテンドー・DSを開発したのか。もしかすると、ニンテンドー・DSが相手にしなければならないのはPSPではなく、携帯ゲーム市場をほぼ独占するだけの力を持つGBAでもかなわない、圧倒的な普及台数を誇るハードではないのか。だからこそ、GBAではない新しい携帯ゲーム機を開発したのではないだろうか。
その相手を知ることで、ニンテンドー・DSが開発されることになった本当の意味を理解できるのかもしれない。
注5…任天堂ニュースリリース『“二画面”新携帯ゲーム機の発売に関して』2004年1月21日
注6…2003年5月15日 日経産業新聞
注7…『任天堂:2画面の新型携帯ゲーム機を年末発売-現行比8倍の容量』2004年1月21日
(つづく)
(ライター:菅井) |
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