なぜ排除の論理を選んだのか? ~長期政権が崩れるとき~Part3

「排除の論理」

『僕たちは、技術をベースとして世の中にイノベーションを起こしていきたい』(注9)。SCE名誉会長の久多良木氏は以前、こう語った事がある。同氏が中心となって生み出したPSシリーズはゲーム市場を席巻し、あれほど強固であった任天堂の牙城を切り崩す事に成功した。

『良いことを提案するのは、技術者として当然のことですよ』(注10)と話す久多良木氏だからこそ、高機能・高性能に拘ったゲーム機を作り続けた。そして新しいPSが登場する度に、開発者達はその高性能さに驚かされる羽目になる。

『とても信じられない・・・・・・。これが本当に動いているならば、本当に凄いことだ』(PS1登場時、注11)、『SCEは、とんでもないマシーンを作ったものだ』(PS2登場時、注12)、『ドアを開けた途端に、強烈なワン、ツーパンチを顔面にもらったようなインパクトだった』(PS3登場時、注13)。

だが、三代に渡って途切れることなく続いてきた高性能の追求こそが、結果的に「排除の論理」を生み出すことになってしまう。つまり開発者すら驚かされるほどの能力を持ったゲーム機を連綿と開発してしまったが故にPS3では『開発に二年かかるのもざら』(注14)となり、『PS3のソフト開発費は従来の二倍以上、十億円を超える場合もある』(注15)ほど、ソフトメーカーにとって「敷居の高いゲーム機」が生まれてしまったのだ。

こうなってくるとPS3用のゲームソフト開発が困難になるソフトメーカーが現れたとしても不思議ではない。事実、『PS3で一本出すよりDSで十本出したい』(注16)のがソフトメーカーの本音だという。SCEにとってこの発言は痛手でしかない。

過去において、任天堂はN64時代に少数精鋭主義を掲げて意図的に「障壁」を作り、ゲームのタイトル数を絞る戦略をとったが、SCEは高性能さを追い求めることによって結果的に「障壁」をより高く設定してしまい、それを乗り越えられないソフトメーカーを任天堂と同じように排除しつつあるのだ。

『DSの開発タイトル数は現在五十本。PS3は十数本、Wiiは三十本くらい』(注17)と述べ、PS3よりもニンテンドーDS(NDS)やWiiを重視しているのはバンダイナムコだ。さらに、大手のスクウェア・エニックスは同社の看板ソフトであるドラゴンクエストの最新作をNDS向けに供給しようとしている。

かねてより同社の和田社長は『最も普及したゲーム機で出す』(注16)ことを公言していた。ならば今作も前作同様にPS2へ供給するのが最も良い選択だと思われる。だがそうしなかったのは『ドラクエ9は前作よりも開発費を抑えられそうだ』(注16)との期待もあったからだ。

大手であっても開発費の増大は頭の痛い問題だ。同社より規模の小さいソフトメーカーなら、なおさらその傾向は強くなるだろう。だからこそ、NDSを重要視したがるソフトメーカーが現れ始めているのだ。このまま手をこまねいていればN64の登場以降に多くのソフトメーカーが任天堂から離れてしまった時と同じような現象がPS3で起きる事も十分に考えられる。

SCEが意図せずに持ち込んでしまった「排除の論理」は、残念ながら「N64の失敗」を忠実に再現しつつあると言える。もし、SCEがそれを阻止しようとするならば、本体価格の引き下げなどの小手先の対応策だけではなく、根本的な原因である「排除の論理」を取り除くような、抜本的なテコ入れが必要となるだろう。

それができなければ、PS3が将来N64と同じ末路を辿ったとしても不思議ではない。


注9…『週刊東洋経済 2005.7.2』 P41 東洋経済新報社
注10…『久多良木健のプレステ革命』著麻倉怜士 2003年 ワック株式会社 P316
注11…『久多良木健のプレステ革命』著麻倉怜士 2003年 ワック株式会社 P121
注12…『プレステ2 ネット戦争』 著田中秀雄 JMAM 2000年 P161
注13…『週刊東洋経済 2005.7.2』 P37 東洋経済新報社
注14…2006年11月10日 日経産業新聞
注15…2006年11月10日 日経産業新聞
注16…2006年12月13日 日経産業新聞
注17…2006年12月13日 日経産業新聞

(菅井)